約 1,225,112 件
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/59.html
前へ お姉ちゃんが変わった。 あの日のことは、今でもはっきりと覚えている。 キュートの仕事の時に、お姉ちゃんが階段から落ちて頭を打ったという話を聞いて、パパママと一緒に病院へ行った。 受付には矢島さんたちキュートのメンバーとマネージャーがいて、検査が終わって異常がないので家に帰れるというような話をしていた。 「よかったぁ。」 でも、そのわりにみんな微妙な顔をしていた。暗いというわけじゃないけれど、何か言いたいような言いたくないような、おかしな雰囲気だった。 「えっと、お姉ちゃんは大丈夫なんですよね?」 近くにいた鈴木さんに聞いてみる。 「へえ?ああ、・・・・うん。大丈夫、だよね?」 「そう、だよね?」 「うーん?」 やっぱり反応が変だ。誰も私と目をあわそうとしない。 「何かひどい怪我とかあったならちゃんと教えてください!」 「怪我っていうか。」 うつむいたままの萩原さんが喋りだした。 「おかしくなったかも。頭が。」 ・・・・・・・・・・・え? 「それ、どういう」 「お待たせしました、ご家族の方、入ってください。」 もう少し詳しく聞こうとおもったら、看護師さんが呼びにきた。 頭おかしくなったって。 お姉ちゃんは時々幼稚園児みたいなこと言い出すから、私もバカとか言ったりすることはある。 でも何か、他の人が言うのはちょっとむかつくかもしれない。 別にたいしたことなかったら、お姉ちゃんに言いつけてやろうかな。 「岡井さん。入りますよ。」 検査室に入ると、おでこに大きい湿布を貼ったお姉ちゃんが振り向いた。 顔もぶつけていたみたいで、右のほっぺたもちょっと赤くなっている。 「ちょ、ちょっと平気?ここ打ったの?」 思わず湿布に触ると、お姉ちゃんが「キャァッ」と短い悲鳴を上げた。 「痛いわ、明日菜。たんこぶができているのよ。」 ―お姉ちゃん、今何て。 キャア?痛いわ?のよ? 「何でふざけてんの!みんな心配してるのに!」 「明日菜。」 文句を言おうとしたら、ママに肩を引かれた。少し顔が青ざめている。 「お父様、お母様、明日菜。心配をおかけして、ごめんなさい。特に異常は見当たらないとのことですから、一緒に帰れるみたいです。」 お姉ちゃんは真面目な顔で、私達に深々と頭を下げた。 お嬢様ごっこか。 よくお姉ちゃんが「愛理の真似ーぶはは」って笑いながらやるモノマネの声に似ていた。 パパもママもぽかーんと口を開けてお姉ちゃんを見ている。 お医者さんが、しっかりしたお嬢さんですねとか言っている。 違うのに。お姉ちゃんはこんなんじゃない。 こういう場合なら、ちょっと半泣きで「ごめんねごめんね」って謝ってくれるはずだ。 こんなに心配して駆けつけたのに、いつまでくだらない演技を続けるんだろう。 「ねーもう本当にそのキャラやめて。キモいから。」 「明日菜!いいから黙って。千聖、大丈夫なら家に帰ろう。」 もっといろいろ言いたかったのに、ママに遮られてしまう。 どうして?私たちだけじゃなくキュートのメンバーだって、お姉ちゃんを心配して病院まで来てくれてたのに、こうやってふざけるのはいけないんじゃないの? 「今日はお姉ちゃん、疲れてるんだよ。そんなにカリカリするな。」 そういいつつもパパは動揺しているみたいで、廊下で2回も転びかけた。 「ちっさー!」 病院の玄関のあたりで、矢島さんと萩原さんが待っていた。 「ちっさーのおじさん、おばさん、ごめんなさい、私が千聖ちゃんとふざけていてこんなことに」 「舞美さん、あれはただの事故ですから。私は大丈夫です。そんなふうにおっしゃらないでください。」 「ちっさー・・・」 もう遅い時間だから、他のキュートのメンバーは先に帰ったらしい。 2人は責任を感じて残っていたみたいだった。 お姉ちゃんに体の調子をしきりに聞いてる矢島さんとは裏腹に、萩原さんは少し離れたところから、黙ってお姉ちゃんの顔を見つめている。 とても厳しく、怖い顔をしていた。 相方って言われるぐらい仲良しだから、返って、責任を感じているのかもしれない。 別に、萩原さんのせいじゃないのに。そんなに気にすることはないのにな。 私の視線に気づくと、少し眉を寄せて、さっさと中庭の方へ歩いていってしまった。 「あ・・・・」 なぜか追いかけてはいけない気がした。みんなお姉ちゃんを構うのに夢中で、気づいてもくれない。 「お姉ちゃん、萩原さんが」 呟いた声は、誰にも届かなかった。 どうしても変なキャラをやめてくれないお姉ちゃん。 そのことについて何も言わないパパとママ。 お姉ちゃんに一言も声をかけないで、どこかへ言ってしまった萩原さん。 私にとって当たり前だったたくさんのものが、静かに壊れ始めているような気がした。 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/99.html
○| ̄|_ 今の私の気持ちを記号にすると、まさにこんな感じだった。 「舞美ちゃん、鈍すぎる。」 わりとよく言われる言葉だけれど、さすがに今日ばかりは反省せざるをえない。 まさか、私だけが何も気づかなかったとは・・・・。 最近は何の事件もなく、平和だったはずのキュートに、いきなり超緊急事態が発生した。 ダンスレッスンの休憩中、舞ちゃんと喋っていたら、いきなり「どうしたの!?」となっきぃの甲高い声がした。 あわてて振り向いたら、栞菜とちっさーが床に座り込んで泣いていた。 「えっ」 何事? 今の今まで特にケンカをしている様子もなかったのに、いきなりの展開に頭がついていかない。 「千聖!」 舞ちゃんは半分私を押しのけるような感じで、千聖のところへ走っていった。 栞菜にはすでにえりがついているけれど、どう見ても栞菜の方が大変な状況に見えたから、私は後ろから背中をさすってあげることにした。 あんまり興奮しすぎたからか、過呼吸みたいになってしまっている。 栞菜はすごく感受性が強いから、ネガティブな出来事にはとても弱い。 「大丈夫、大丈夫」と声をかけていると、少しずつだけれど落着いてきたみたいだ。 「えりかちゃん、これ。飲ませてあげて。」 愛理がスポーツドリンクを持ってきた。 「ありがとう。・・・舞美、ちょっと背中ポンポンするのストップね。」 「あ、うん。」 私は手持ち無沙汰になってしまったので、今度はちっさーの様子を見ることにした。 ちっさーにはなっきぃと舞ちゃんがついている。 もうちっさーは泣いていなかったけれど、まったく生気のない目をしていた。 「千聖ぉ、どうしたの」 べそかきながら介抱するなっきぃにも、強く手を握る舞ちゃんにも、何の反応も示していない。 ちっさーの瞳は、いつも光を取り込んでキラキラしている。 その綺麗な瞳が今は輝きを失って、人形みたいに虚ろな表情だった。 これは普通のケンカじゃない。 鈍感な私もそれは理解できた。 問題は、ここからどうすればいいかだ。 話し合いができるような状態じゃないし、レッスンを再開できるとも思えない。 「舞美。今日はもう栞菜帰らせてもいいかな。ウチが送るから。」 一人で考え込んでいると、えりに後ろから肩をたたかれた。 栞菜はまだひどく泣きじゃくっていて、崩れ落ちるような体勢で愛理にしがみついている。 確かに、一度ここから離れて落ち着かせたほうがよさそうだ。 「うん、そうだね。」 「じゃあ、マネージャーさんたちに言ってくる。」 あ、それは私が。と言う前に、えりは走って行ってしまった。 何か私、全然役に立ててない。 じゃあタクシーでも、と思ったら、もうすでに愛理が連絡を取ってくれていた。 「なっきぃ、顔洗ってきたら?千聖には舞がついてるから、大丈夫だよ。」 私があたふたしているうちに、舞ちゃんにうながされてなっきぃが立ち上がった。 「あ、じゃあ私一緒に行く。」 そこはなっきぃじゃなくてちっさーに付くべきだろうと言った後で気がついたけれど、今更撤回するのもおかしいから、なっきぃの肩に手を回して一緒に外へ出た。 「何か、びっくりしたね。」 「うん・・・こないだ2人が様子おかしかった時、ちゃんと相談に乗ってあげればよかった。」 あれ?心当たりがない。 「そんなことあったっけ?今日いきなり変な感じになっちゃったのかと思ってた。」 「ほ、ほら、あの、皆にみぃたんちで遊んだ写真見せてた時、栞菜が先帰っちゃったでしょ?なんか千聖落ち込んじゃってて。」 「あぁ~、あれか!」 情けない話だけれど、今の今まで記憶の中からすっぽ抜けていた。 「あの後もさ、2人ちょっと変だったでしょ。栞菜が千聖にすごいいろいろしてあげてるって感じだったけど、全然楽しそうじゃないの。」 「・・・・ごめん、それ全然気づかなかったよ。」 「もーー!みぃたん、鈍いよぅ・・・・みんなで気にしてたのにー!」 口尖らせて文句を言われて、じわじわと気持ちが落ちてきた。 私、本当にリーダーでいい、の、かな・・・・? TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/136.html
舞ちゃんたちが部屋を出たのを確認して、なっきぃは改めて私を見て顔をしかめた。 「えりこちゃん、何か着てよ。目のやり場に困る。」 「ぶふっ」 そっけなくパジャマ代わりのみかんTシャツを投げつけられる。 「えり、床とかびっちょびちょだよ!ちゃんと拭かなきゃだめじゃーん。うわうわ、シーツも!犯人はどっちだ!えり?ちっさー?」 「え、ふた」 「えりこちゃんだよ。」 私が答える前に、なっきぃが光の速度で口を挟んだ。 「えりこちゃんは千聖にやらしいことしたいから、ずぶぬれでこう、カクカクしながら戻ってきたんだよ。カクカク」 なっきぃは私が口を挟めないのをいいことに、いつも以上にキレのあるラミラミを見せ付けてきた。 「えー何それ!前に言ってたマッサージ?裸で?えりヘンターイ!とかいってw」 ごめん舞美、マッサージ?そんなどころじゃないぜ。 「でも確かに、ちっさーってマッサージするとすごいとろけた顔になってかわいいよね!小犬みたいにクンクン喉鳴らすし。えりがそういうふうにしてあげたくなるの、わかるよ。」 「それはどうも・・・」 「うー・・・・」 舞美はあまりにも澄み切った瞳で笑いかけてきた。さすがのなっきぃも口ごもる。 「みんな集まらないから今日はお開きかと思ってたんだけど、この部屋で遊ぶの?」 「そうだね、キュフフ。楽しい夜が始まるよ。」 楽しくない!それ絶対楽しくないよなっきぃ! 「お待たせー。千聖届けてきた。」 ほどなくして舞ちゃんが戻ってきた。これで役者はそろった。 「お疲れ、舞ちゃん。・・・・さて、始めようか。」 なっきぃは舞美と舞ちゃんを促して、綺麗なほうのベッドに移動した。私はグジョグジョのまま・・・ 「ではこれより、梅田えりか被告が未成年の岡井千聖さんに猥褻な行為を行った件で、キューティー裁判を行います!」 「インコウジョウレイイハンでしゅよ、えりかちゃん!」 「おー!頑張って!」 舞美の能天気な拍手とともに、恐怖の宴がスタートした。 「えー、まず、被告人の罪状ですが・・・」 なっきぃはこういう時、結構役になりきっちゃうタイプだ。黒いバインダーに指示棒、私物のメガネをかけて私の周りをうろうろ歩く。 「はい、では、梅田えりかさん。あなたが千聖さんに対して行った、み、み、みだらな行為のしょしょしょうさいを述べなさい。」 「ええっ無理かんべんして!ていうか、淫行条例とかって、ウチも未成年なんだけど!そういう場合は引っかからないんじゃないの?それに、合意の上だし」 いや実際どうだか知らないけど。そうであってください日本の偉い人! 「キュフフ、そんなことはいいの。これはキュート王国の条例なんだから。」 「キュート王国では住人同士のミダラナコウイをきんじておりましゅ」 「そうだそうだーみでゃらにゃこういは禁止だよ、えり!」 ションナ・・・って、王制かよ。 「さあ、答えてください。こちらは自白の強要も辞さない構えですが?」 「最近、千聖とプロレスやってないから技の切れを試したいんだよね・・・」 ひえええ! 「詳細って・・・・・だから・・・胸揉んだり」 「キャー!」 なっきぃが枕を投げてきた。き、聞いたくせに! もう知らん。どうにでもなれ!私は開き直った。 「あとねーあと、千聖腰が弱いから指でさすさす」 「ギュフー!」 二個目の枕。 「おしりムニムニ」 「梅田ァ!」 クッション。 「お耳をはみはみ」 「キ゛キ゛キ゛キ゛」 毛布。 痛くない物を選んで投げつけられてるものの、なっきぃの荒い鼻息に、怒りの程がうかがえる。 「え、え、えりこちゃん!!」 「だってー答えろっていうから。ていうかなっきぃさぁ」 私はなっきぃの手を掴んで、自分の横に座らせた。舞舞美には見えないよう、こっそり耳打ちする。 「さっき実際見てたのに、もう一回聞くの?実は結構興味あるとか?」 なっきぃは肩をピクッと震わせた。お、これは悪くない反応かも。さっきまでの怒りの表情じゃなくて、ちょっとほっぺたが赤くなっている。私は調子に乗って、耳に息を吹きかけてみた。 「ぁフん。・・・・っていうと思ったかえりこちゃんめえええ!みぃたん、舞ちゃん、カモン!」 油断していた私は、なっきぃのタックルでベッドに沈められた。 「ぐえっ」 舞美がわくわくしてるゴールデンレトリバーみたいな顔でこっちへ向かってくる。 舞ちゃんは笑ってるけど笑ってない。ていうか、笑ってない。 「では、被告人梅田えりかに判決を言い渡す!」 なっきぃのロリボイスが、コテージに響き渡った。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/91.html
前へ 「意味わかんない。」 「はいはい、頭悪い人にはわからないだろうね!」 「もー・・・いい加減にしなって。」 はい、任務は遂行できませんでした。 千奈美とももは、結局仲直りできなかった。 大体ね、千奈美がが余計なこと言い過ぎるんだよ。それで、ももはそういうの流せなすぎ。 せっかく私がキューピッドになってあげようと思ったのに、2人から「梨沙子は黙ってて!」とか言われちゃった。 何だよー 頼りにしてくれて嬉しかったのに、もものアホー。 ももたちはあんなだし私はこれで凹んじゃったし、すごく最悪な雰囲気のまま着替えの時間になった。 まぁに励ましてもらいながらおサルの格好になる。 こんなにファンキーな格好してるのに、みんな暗い顔しているのがちょっとだけ面白かった(熊井ちゃんはいつもどおりだけど)。 暇そうにしていたみやに声をかけて、お互いのほっぺに赤い丸を描いてるうちに少し気持ちが落着いてきた。 「元気ないね。さっきキュートの楽屋行ったんでしょ?千聖とか、愛理とケンカでもしちゃった?」 「うーん。ケンカはしてないんだけど・・・」 私たちの後ろの方では、ももと千奈美のケンカコンビが 「ちょっと!丸が大きいんだけど!ブスになるでしょ!」 「徳さんだってももの鼻に丸描いたじゃん!」 となんだかんだ言いあいながらペアになっている。 あれで仲直りしたように見せて実はしてない、っていう。まったくめんどくさい人たちだ。 「大丈夫?本当顔色悪いよ。梨沙子ギリギリまで言わないんだから。」 私の頭をポンポン叩いて、みやはお姉さんぽい顔をしてくれた。 私は落ち込んだり悩んだりすると、すぐ体調が悪くなってしまう。みやはいつも一番最初にそれに気づいてくれる。 急にテンションあがりすぎたり天然なとこもあるみやだけど、こういうところはお姉ちゃんって感じですごく甘えたくなる。 悩んでること、それはもちろんももたちのことじゃなくて、千聖のことだ。 さっき帰りがけにプロレス技を仕掛けたとき、千聖はまるきり弱っちい女の子みたいなリアクションだった。 いつもだったらすかさず反撃されて、私が大抵負けて終わり。 この流れも含めて千聖と格闘ごっこするのはとても楽しかった。 愛理とはできない男の子っぽい遊びを、千聖とやるのがすごく好きだったのに、きっとそれは当分できなくなっちゃうんだろうな。 さっきももと千聖が話してるのを見ていたら、前と変わってないようにも見えたけど、やっぱりこういうのは体に聞いたらすぐにわかるんだ。 どうしたらいいのかな。 私は嘘をついたり、知ってることを知らないふりしたりするのが苦手だ。 千聖が頭を打って、キャラがお嬢様になってしまったということは、私ともも以外知らない。 キュートは、私とももがそのことを知っているということを知らない。 ベリーズメンバーでは、私ともも以外そのことを知らない。 だから、私とももでベリーズのみんなの目から千聖を遠ざけなくてはいけない。 さっきももが言ってたのはこういうことだと思うけど、 「難しすぎるよ・・・・」 こんなにいっぱいのことを考えながらいちいち行動するなんて、私には無理だ。 考えるだけで頭がクラクラして、おなかが痛くなる。 「梨沙子、ちょっとコメ撮り待ってもらう?無理することないよ。」 「みやぁ。」 どうしよう・・・。 みやの優しさが心に染みて、泣きそうになる。 絶対に誰にも言うなって言われてたけど、みやなら口が堅そうだから大丈夫なんじゃないかな。 ももは自分のことでいっぱいいっぱいになってしまって、私のことなんて全然気に止めてくれないし。 「みや、あのね」 「ん?」 どうしよう・・・。 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/86.html
「私がキッズじゃなくて、エッグだから?」 私は最近、こんな魔法の言葉を手に入れた。 言うべきではないと自制していた言葉ほど、一度口にしてその効果を知ってしまうと、もうその魔力に頼らずにはいられなくなってしまう。 みんなの大好きな、千聖お嬢様の本当に傷ついた顔。 こんな簡単な言葉で引き出せるものだとは、思ってもみなかった。 多分、きっかけはほんのささいなことだった。 レッスンが終わってロッカー室で、舞美ちゃんが「見て見て!」と写真を広げた。 そこには舞美ちゃんとなっきぃと、ちっさーがゴスロリメイクではしゃいでいる姿が写っていた。 「これ、この間のメイドカフェがどうのってやつ?」 「そう!結局カフェには行ってないんだけどね~でも本当楽しかったよ!」 回ってきた写真をじっくり見ていると、本当に面白かったんだなというのが伝わってきて、うらやましい気持ちと同時に少し嫉妬心が芽生えた。 「私も参加したかったなあ。」 口を尖らせて舞美ちゃんに抗議すると、えりかちゃんも「ウチもー」と支援してくれた。 「だって、栞菜と愛理は男衆カフェのほうがいいって言ってたじゃないか。えりなんて仏像みたいな顔してたくせにー!素直にならないのがいけないんだよーとかいってw」 「男子校カフェだよ・・・」 確かに、舞美ちゃんの言うとおりだとは思うんだけど、自分の知らないところで何か楽しいことがあったんだと思うと、すごくもやもやした気分になってしまう。 「キュフフ、メイクはなっきぃがやったんだよ!みぃたんたらちっさーに変なこと仕込んだりするしさぁ。」 「ふふ、いやだわ早貴さんたら。」 すごく楽しそうなみんなとは裏腹に、私の心は曇っていく。 「この後なんか、結局遅くなっちゃったからみぃたんちに泊まったんだよね。それで結構真面目な話とかしちゃって。」 「あれは深い話だったよね!キュート最高!とか叫んじゃったし。」 何だか聞いていられなくなって、私は静かに席を立った。 自分でもバカみたいだとは思う。 仲間はずれでもなんでもないし、愛理も舞ちゃんもえりかちゃんも参加してなかったんだから気にするほどのことじゃない。 でもそこで何の話をしていたのか、3人だけの秘密ができたりしたのか、私の話とか出たのか、なんて聞きようのない疑問がふつふつと湧き出てくる。 「栞菜。」 みんなの輪を外れて、ちっさーが私の隣の椅子に座ってきた。 「・・・なっきぃや舞美ちゃんと、どんな話をしたの?」 「そうね・・・キュートのイベントやコンサートの思い出とか、あとは学校の話でも盛り上がったわ。」 まったく悪びれた感じもなく、ちっさーは普通に答えてくれた。 これで納得して引き下がればいいのに、今日の私は本当にねちっこい。 「もうちょっと具体的に聞きたい。思い出って?学校の話って、栞菜が知らないこと?その場にいなかったメンバーの話も出た?」 「ちょ、ちょっとまって。それは、答えられることと答えられないことがあるわ。お2人に確認してみないと・・・。ごめんなさい。」 「・・・わかった、いいよもう。ちっさーずっとそうだもんね。私とはまともな話とかできないって思ってるんでしょう。」 落ち着いて説得されたことが逆にカチンときて、ちっさーを睨みながらどんどん責める口調になっていく。 「栞菜、」 「何でそうやってハブんの? ・・・・私が、キッズじゃなくてエッグだったから?」 そんなに深い意味があっていったつもりじゃなかったのに、ちっさーは目に見えてうろたえ始めた。 「ちが・・・うわ・・・栞菜どうしてそんな」 初めて見る表情だった。大きな黒目が私を捉えきれずに揺れて、辛そうに伏せられた。 どうして?ちっさーがそんな顔をするようなことじゃないのに。 むしろ傷ついてるのは・・・ 「栞菜、もういいかげんにしたら。」 えりかちゃんが私とちっさーの間に割って入って、ちっさーを抱きかかえるようにして連れて行ってしまった。 気が付くとみんなが私の方を見ている。 多分、えりかちゃん以外は何があったのかわかってない。きょとんとした顔で、説明を求められているみたいだった。 「栞菜?」 「ごめん、帰る。」 私はバッグを乱暴に掴んで、そのまま部屋を出て行った。 TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/72.html
前へ 「階段から落ちたちょっと前に、舞とケンカしたのは覚えてる?」 「喧嘩・・・ごめんなさい、わからないわ。」 千聖は右のこめかみを抑えた。ケガの前後の記憶があいまいになっているらしく、それを無理に思い出そうとすると、こめかみが痛むと前に愛理に話しているのを聞いたことがあった。 「ふーん。覚えてなければいいよ。謝らないで。・・・ようするにそれがなければ、こんなことにはならなかったって言いたかっただけ。 はっきり言うね。 私は、まだ前の千聖に戻ってほしいと思ってる。」 丸っこい膝の上で揃えられた両手に、グッと緊張が走った。 「おとといの夜と昨日一日、ずっと舞美ちゃんと話し合った。 舞美ちゃんは、千聖だけじゃなくてキュートの誰がどんな状況になったって、全員で受け止めていくべきだって言ってた。 舞もきっと、千聖のことじゃなければそう思えた。キュートは第2の家族だからね。 何があってもみんなで乗り越えていくのが当たり前だって。 でも、千聖だけは別だよ。受け止めきれない。舞にとっては特別すぎる。もう二度と前の千聖に会えないなんて、それじゃまるで千聖が死・・・」 言葉が喉の奥に詰まった。私は今恐ろしいことを言おうとした。 「舞さん大丈夫よ、最後まで聞かせて。」 千聖の指が、私の肩に触れた。 顔を覗き込む茶色い瞳は少し濡れて潤んでいたけれど、それでもしっかりと私を捉えていた。 「うん、でもごめん。最後言いかけたのは聞かなかったことにして。 ・・・だからね舞はこの先も、前の千聖に戻ってくれるのを待ちたい。 もう当り散らしたり無視したりしないから。あれはありえなかった。本当にごめん。 元に戻れるように協力するから。だからずっとキュートにいて。お願い。 ・・・・・・・・千聖。」 あの日の事件から初めて、私はお嬢様の千聖に「千聖」と名前で呼びかけた。 「舞さんっ」 「あーもー泣くなよ!瞼腫れたらよけいひどい顔になるんだからね!」 照れ隠しにタオルで千聖の顔をごしごしやると、痛いわといいながらも笑顔に戻ってくれた。 「それで、何でこの話するのに急いでたかっていうと、昨日雅ちゃんからメール来てね。ベリーズ今日、ここに来るんだって。」 「まぁ。」 今日はキュートの新曲の衣装合わせでスタジオに集まったのだけれど、どうやらベリーズもコメ撮りかなんかがあるらしい。℃-uteのみんなと会えるね★ワラ なんていうのんきなメールを見たときはちょっと冷や汗がでた。 まだベリーズは千聖のお嬢様化のこと知らないんでしょ?一応、舞美ちゃんがみんなに緘口令っていうの?出してたし。 ・・・別に、ベリーズの皆のことを信用してないわけじゃないんだけど、まだこのことはキュートの中の秘密にしておきたいって。そういってたから。」 「わかったわ。それで、私はどうしたら・・・」 「これ、読んで。」 私はずっと手に持っていた、小さなブルーのノートを手渡した。 「・・・・岡井千聖マニュアル?」 「これね、昨日舞美ちゃんと舞が作ったの。千聖、今一応仕事中も前のキャラに近い感じで頑張ってるでしょ? でも新曲出るしイベントも始まるし、そろそろ自己流じゃボロが出てくるかもしれないから、舞たちが思いつく限りの前の千聖のことを書き出してみたの。 ほら、ここのページに、千聖がベリーズのメンバーそれぞれをどう呼んでたか書いたから。参考にして。」 正直、結構自信作だ。イラスト入り(私の絵は・・・)でかわいいし、後ろのページにははりきりすぎた舞美ちゃんの作成した謎のグラフやらデータ解析まで載っている。 「千聖はがに股。笑い声はク゛フク゛フ、爆笑はキ゛ャヒヒヒヒ。食べ物を30秒に一回落っことす。お調子者。学校でサルって呼ばれる。・・・・舞さん、私心がくじけそうだわ。」 「しっかりして!まあ、今日は体調悪いってことであんまり喋らなければいいよ。そこらへんはキュートでフォローするから。とりあえず、名前の呼び方と言葉遣いだけ気をつけて。時間ギリギリまで練習しよう。」 その時の私は、ちゃんと今の千聖と向き合えた高揚感と興奮で、私達の会話をずっと聞いていた人物がいることに気がつかなかった。 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/chisato_ojosama/pages/80.html
前へ 「よし、この部屋空いてる。千聖、入って入って。」 物置部屋みたいになっている一室に、千聖を招き入れて鍵を閉める。 「で、どうしたの?ブラが壊れた?見せてみて。」 「あ・・・は、はい。」 千聖はお嬢様らしい、胸元のサテンが可愛い水色のカットソーをおずおずとめくりあげる。 あ、何かエロい。こういうシチュエーションがそそるとかなんとか同級生が言ってた。 こんな大人しいお嬢様が顔を赤らめて自ら乳(しかも大きい)を見せてくるとかきっと男子にはたまらんだろう。って私は女子だから関係ないんだけど。 「んん?・・・・千聖、寒がりだっけ?」 カットソーの下にキャミを着ていて、それをめくるとさらにシュミーズまで着ている。ブラはまだその先か。 「あ、えと、寒がりではないのですが。」 ボソボソと喋りだした内容を要約すると、こういうことらしい。 最近学校で友達に胸が大きいといわれるようになって、しかもクラスの男の子が、陰で岡井の胸がどうのこうの噂しているのを偶然聞いてしまった。 もともと自分の胸のことは気に入ってないから、最近はなるべく目立たないようにちょっと着込んでいる。 「そっか。気にしてるんだね。でも大きいのは長所だと思うよ?堂々としてればいいのに。キュートのみんなだって、ちっさーいいなとか言ってるじゃん。」 「そう、でしょうか。」 千聖は複雑そうな顔をしながらも、最後の一枚をまくってブラを見せてくれた。 「あらら・・・これはやっちゃったね。」 白いフロントホックのブラをつけているけれど、肝心のホックが飛んで真ん中から綺麗にパックリ割れている。 「これさ、さっきの梨沙子のすごい攻撃で?」 「ええ、多分。あ、でももともと少し弱ってきてたから。梨沙子さんのせいというわけでは」 たしかに頭からゴチンてやられた時、胸すっごいたわんでたかも。災難だったね千聖。 「うーんどうしようか。今日ダンスとかあれば、替えの下着もあったんだけどねー。ガムテ?いやいや、そんなわけには。」 ・・・・ん?でも何か・・・・ホックって、そんなに弱い? 「千聖。ちょっと、背中。」 「え、は、はい。」 ごそごそまさぐってタグを確かめる。 「・・・・これ、カップ数、全然あってないよ。そりゃブラも痛むよー。無理矢理つめこんでるんだもん。」 千聖が身につけていたのは舞m、じゃなくて愛r、じゃなくて、とにかくあきらかに千聖にあっていないサイズのものだった。 「ごめんなさい、えりかさん・・・」 「え、いーよ別に。ていうかウチに謝ることじゃないけど。でも、千聖。いくら自分の胸が嫌でも、ちゃんとした下着をつけたほうがいいよ。あのね・・・」 私は友達やお姉ちゃんから聞いた、胸に関するマメ知識を次々に披露していった。 小さいブラつけても胸が小さくなるわけじゃないとか、 逆にお肉がもれて贅肉に変わっちゃうかもしれないとか、 血流が悪くなって代謝も落ちて体に悪いとか、 私が話すひとつひとつを、千聖は真剣に聞いてくれた。 「・・・だから、今度ママに頼んでちゃんとしたやつ買ってもらいな?もし恥ずかしかったらウチがついていってあげるよ。」 「ありがとう、えりかさん。」 千聖はにっこり笑うと、ギュッと抱きついてきた。半裸で。 「うおっ。」 「私、えりかさんに相談してよかった。こういうお話は、えりかさんに一番聞いて欲しかったから。愛理や舞ちゃんたちは、歳が近すぎて。舞美さんは・・・・えと・・・」 舞美さんは、服装以外男だからね。 「えりかさんがいてくれてよかったわ。」 「千聖ぉ。・・・・・いやいや、そういってくれるのは嬉しいんだけど、結局ブラは直ってないわけで。」 「あ・・・・」 「まかせて。私にいい考えがある。」 この時の私は、まいあがってる時の自分が、舞美よりよっぽど物事の判断がおかしくなるタイプの人間だということにまだ気づいてなかった。 次へ TOP
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/388.html
「ウチは、キュートが大好きだよ。でも、今叶えたい夢は、今のままじゃきっと叶わない。憧れだけで終わっちゃう」 「でもっ・・キュートにいたって、目指せることじゃんか・・・」 「そうかもしれないけど、大好きなキュートを言い訳にしたくないの。ウチ、ヘタレだしすぐ甘ったれるし、行き詰ったらまたみんなのところに逃げ込みたくなっちゃうと思う。 どっちもこなせるタイプの人もいるんだろうけど、ウチはきっとそういう風にはできない。 ちゃんと離れないと、自分の決心さえ揺らいじゃうぐらい、ウチにとってキュートは大きな存在なの。舞美も、なっきぃも、愛理も、千聖も、舞もいないところで、一人で踏ん張らなきゃ、意味がないんだ」 私はまくしたてるように一気に喋ると、大きく息を吐いて唇を噛んだ。 今回の件に関して、ここまで自分の意思を告げたのは初めてだった。誰と話していても、何となく、この手の話題はお互い避けていたから。 だけど、こうしてはっきり口に出した事で、改めて自分の気持ちを確認できたようにも思う。精神的にかなり弱い私が、こうして泣いて引き止められても揺るがないなら、やっぱりもう、二度と振り返ってはいけないんだろう。 「えりかちゃん」 しばらくの沈黙の後、私の手を握り締めたまま、千聖が思いの他明るい声を出した。 「よかった、ちゃんと話してくれて」 顔を上げると、ほっぺたを濡らす涙を拭おうともせず、真っ赤な目でじっと私を見ている千聖と視線が交わった。いつもみたいに、目を三日月にして笑っている。 「ちゃんと泣かないで話しきったし、偉いぞえりか!」 「もう・・何言って・・・」 おどけた調子で頭を撫でられて、思わず笑った拍子に、気が緩んでしまった。 356 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2009/10/19(月) 22 45 10.20 0 「ごめ・・・結局泣いちゃった・・・」 笑いかけようにも、壊れた蛇口から水が溢れるみたいに涙がボトボト落ちて、手で顔を覆うのが精一杯。 「もう、しょうがないなあ」 あまりの私の惨状に苦笑して、千聖は私の顔を裸の胸に押し付けるようにして抱きしめてくれた。 「さっき、ごめんね。困らせるようなこと言って。何か急に淋しくなっちゃった。でも、大丈夫だからね。えりかが頑張るみたいに、千聖も・・・キュートも走り続けるから。何か気合い入った。」 「うん・・・」 「それに、今までよりは回数減っちゃうけど、会いたくなったらいつでも会えるでしょ?っていうか、会おうよ」 カラッとした表情で笑う千聖は、私なんかよりずっと大人びて見える。本当は胸の奥にまだいろんな気持ちを抱えているはずなのに、もうそんな素振りは微塵も見せない。 「どうしよう・・今更不安になってきた・・・ちしゃとぉ、ウチちゃんとやっていけるかな」 「大丈夫だって!舞美ちゃんも言ってたけどさ、えりかが雑誌載ったら千聖も、全部買い占めるから!感想のハガキだって書いちゃうよ!お嬢様の時にも書けばさぁ、筆跡微妙に違うから枚数稼げそうだし」 痛いくらいにバシバシ背中を叩いていた手が止まって、そっと私を抱きしめなおす。 「だから、これからも一緒に頑張ろう。えりか大好き」 「・・・それは、お嬢様と同じ意味で?」 「グフフフ。さあねー・・・ね、続きしようよ」 千聖は屈託なく笑って、私の手を引っぱった。そのままソファに仰向けに寝っ転がって、首に手を回して体を密着させてくる。 「元気だねー・・・」 「だってまだ匂い移ってないからね。ほら早くぅ」 いつのまに持ってきたのか、私のポーチに入っていたはずの練り香水は、千聖の小さい手の中に納まっていた。大きなたゆんたゆんを惜しげもなく揺らしながら、また胸に刷り込んでいく。これ、何プレイだ。 「もっとずーっとギューしてたらえりかと千聖同じ匂いになるよね?まだまだ時間あるし、・・・ちょっと、えりかちゃん?」 「・・・ゴメン、もう、限界・・・・」 さっきまでのかなり張り詰めていた空気が一変したから、安心感とともに体から力が抜けていく。 「もー、何だよぅ」 「申し訳ないです・・・ちょ、っと一眠りした・・・」 「ちょっと!千聖の上で寝るな!」 ギャーギャー喚く声も、このぐったりした体と頭を目覚めさせるパワーにはならなかったみたいだ。千聖の弾力のある肌を抱き枕みたいに体に押し付けながら、降りてきた瞼に逆らわず、私は目を閉じた。 ――ゴロゴロゴロゴロ 「んー・・・?」 ――バラバラバラ 「ん・・・何・・・・?」 お腹の底に響くような音が、何度も耳を打つ。どうにもうっとおしくて目を開けると、真っ白な壁が目に入った。どうやら、ベッドまで千聖が運んでくれたらしい。毛布をかけていてくれたから、体も冷えていない。 ――ゴロゴロゴロゴロ 「うわっ」 突然、目の前が光ったかと思うと、またあの地鳴りのような音が響いた。雷、らしい。 時計を見ると、もう朝の10時ちょい前。だけど、曇天で外は薄暗い。 「千聖・・・?」 体を起こしてキョロキョロ見渡しても、千聖の姿が見当たらない。隣のベッドにも、ソファにも、もちろん床に転がっているということもなかった。 「ねえ、千聖・・どこ?千聖?」 私は雷は超がつくほど苦手だ。おまけに、光ってからゴロゴロ鳴るまでの間隔がどんどん狭まっている。・・・ヤバイ。一人でいるときに停電にでもなったら。考えるだけでも鳥肌が立つ。 「千聖ってば!」 「なぁに?どうかしたの」 さっきとは違う意味で半泣きになっていると、いきなり廊下から千聖がひょっこり顔を出した。体から湯気が立ち上っている。 「お風呂入ってたの。雷すごくない?」 「・・・・なんだ、いなくなっちゃったかと思った・・」 「そんなわけないじゃーん。千聖知らないホテルとか怖いもん。あんまり出歩きたくない。お風呂だって、本当はえりかと入りたかったし。でも気持ちよさそうに寝てるから・・・ていうか何で涙目?うけるー!」 うひゃひゃと笑いながら、千聖は私の座っているベッドの横に腰を下ろした。 「ずっと起きてたの?」 「ううん。えりかのことベッドまで引きずって、隣で寝てたんだけど、何か朝早く目が覚めちゃったから、テレビ見てた」 「そう・・・うわっ!」 また、部屋に閃光。体をすくめると、千聖は小首をかしげた。 「そんなに雷怖いの?」 「怖いよ。普通女の子は怖がるんだよ。岡井少年はそうでもないかもしれないけど」 喋ってる間にも、雷の音はどんどん近づいてくる。雨も、窓ガラスを叩くような勢いで降っている。・・うぅ、怖い! 図体の大きい私が体を丸めてるのがツボに入ったのか、千聖は相変わらず楽しそうだけれど。 「・・・これね、多分千聖が降らせたの」 「え?何それ?」 「やらずの雨って知らない?国語の授業で習ったんだけど。千聖の地区だけなのかな」 ヤラズ?やらず・・・はて。 授業中は上の空なことが非常に多かったから、正直全く記憶にない。頭を捻っていたら、千聖が説明を続けてくれた。 「あのね、好きな人のことを“まだ帰らないでー”って引き止めるために、どしゃぶりの雨を降らせるの。そしたら、雨がやむまでは、一緒にいられるでしょ?」 「千聖・・・・」 「千聖が降らせたの」 得意げに二度繰り返すと、千聖はおもむろにベッドの上に立ち上がって、毛布ごと覆いかぶさってきた。 「こうやってお布団被ってれば、光っても怖くないよ。・・・ね、もうちょっと一緒にいよう?雨が止んだら出ようよ。まだチェックアウトの時間じゃないよね?」 「・・・だね。もしお昼まで雨ひどかったら、パパ呼んで迎えに来てもらおう。そんで、ミーティングまでうちでまったりしようよ」 「うへへ。千聖がえりか独り占めだ」 それから私たちは、夜の続きと言わんばかりに、イチャイチャベタベタしながらチェックアウトまでの時間を過ごした。 そして、予想以上に千聖の“やらずの雨”は気合いが入っていたらしく、結局パパを呼ぶことになってしまった。 「・・・・あ」 「ん?どうかした?」 お迎えの車の中で、千聖はきまり悪そうに私の顔をうかがってきた。 「気になるから言ってよ」 「いやー・・・あのさ、結局ベッド1台しか使ってないじゃん?使ってない側のベッド、パリッとしてたら怪しまれないかな?とか思ったんだけど」 「・・・・大、丈、夫。だよ。ベッド、大きかったから二人で寝ました的な」 「あー・・・まぁ、そうだよね。うん、大丈夫だよね!キュートのみんなだって、一つのベッドに2人で寝ることとかよくあるし!」 「うん。まあ、多分」 とはいえ、キュートの常識は外では通用しない事も多々あるから、若干不安は残るところだけど。 「・・・次は、千聖がえりかにホテルおごってあげるからね」 「えっ」 「あっ違うよ!やらしいホテルじゃないよ!普通の今日みたいなモゴモゴ」 それはわかってる!私はパパの手前、慌てて千聖の口を手でガッと塞いだ。 「次があるって、期待してていいの?」 「・・・言ったじゃん、えりかはこれからもキュートの仲間なんだから、会いたいときに会うんだって。お嬢様の千聖もそうしたがってるはず」 千聖はちょっと大人びた顔で笑って、私の肩に頭を乗せてきた。 「・・・昨日、今日って、えりかちゃんと2人っきりで過ごせてよかった」 「まだ、今日終わってないから。うちでまったりするんでしょ?」 「そうだ、まったり。だらだらしようぜ、えりか!」 「そこ、テンション上がるとこじゃないから」 なんていうか、たった2日間の出来事とは思えないほど、ものすごく中身のぎっしりした時間だった。横浜散策も面白かったし、ちゃんと自分の考えてる事を話せたのも良かった。 ――それに、アッチの方もかなり大満足。お嬢様は貞淑かつ淫らで、こっちの千聖はほらあれだよ元気っ子が色気づいてグヒョヒョヒョ 「・・・えりかちゃん、だけどさ、今日あとで舞ちゃんに何か聞かれたら、全部えりかちゃんが答えてよ。千聖は怖いからチョットムリデース」 「えっ!ウチだって無理だよ!」 「じゃあ、千聖寝たりないからえりかんち着くまでお休みー」 エロ顔で昨日の反芻をしていたのがバレたのか、千聖は思いっきり舌を出して、そっぽを向いて寝始めてしまった。 ――いやいや、舞様だけでも釜茹で火あぶり石抱きといった拷問プランが容易に思いつくけど、千聖にはさらに桃子様という恐ろしいバックも控えてるわけで。桃子様は精神責めとか得意そうなわけで。 待て待て、千聖ラブという観点からすれば、なっきぃ様とかも十分危険領域に入るお方なわけで。 「うぅ・・・ちしゃとぉ・・・・・」 卒業前とはいえ、私に対して遠慮や無駄な気遣いなんて一切しないであろうそのメンツの顔を思い浮かべて、冷や汗が噴き出した。 数時間後にその予感がある意味本物になるとも知らず、私はなすすべもなくキリキリと痛む胃を撫でつけながら、微笑んで眠りこける千聖の手をギュッと握りしめたのだった。 前へ TOP コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/91.html
私は早足でレストランに向かった。 乱暴にドアを開けた私に驚いた店員さんに軽く頭を下げて、窓際の席を目指す。 「ちっさー!」 誰もいない席にぼんやりと視線を向けていたちっさーは、私の大声に肩を揺らして顔を上げた。 「かん・・・な」 ちっさーの目に、私が映る。 もう二度と2人では会えないと思っていた。 いっぱい伝えたい言葉があったのに、全部頭からすっぽ抜けてしまって、私は座ったままのちっさーを思いっきり抱きしめた。 「もうダメかと思った・・・。」 「栞菜ったら、そんなに強く抱きしめないで。苦しいわ。」 ちっさーの声の振動がおなかに伝わる。 そっと手を緩めて見つめ合うと、どちらともなく「ふふっ」と笑いが漏れた。 私はこんな単純で優しい関係を、自分の身勝手な思いで壊しかけていたんだ。 「ちっさー、ごめんね。本当にごめんね。」 気を取り直してちっさーの向かいの席に座って、私はすぐ頭を下げた。 「いっぱい嫌な気持ちにさせちゃったよね。私、自分のことばっかり考えて」 「栞菜、頭を上げて。私こそごめんなさい。」 ちっさーはテーブルの上でハンカチを握りながら、ポツポツと話を始めた。 「私は、栞菜がエッグだったからといって、区別していたつもりはなかったの。もちろん今でもそうよ。 でも栞菜がそういう風に感じていたのなら、自覚がないだけで、本当はどこかそういう意識があったのかもしれないって、自分の気持ちがわからなくなって。 それとね・・・・・あの栞菜の言葉で、今もずっとエッグで頑張っている明日菜やみんなの努力まで否定されてしまったように思ってしまったの。 冷静に考えたら、栞菜はそんな人じゃないってちゃんとわかったはずなのに。 それに、そう感じたのならもっと早くそういうことは言って欲しくないってはっきり伝えればよかった。 私の気持ちの弱さが、栞菜を傷つけてしまったのね。」 「ちっさー・・・ありがとう、ちっさーの気持ちを聞かせてくれて。 もう私、二度とあんな言葉は言わない。 本当はちっさーが私をエッグだからって差別してるなんて、思ったことはないの。 ただ、私はちっさーの気持ちを強引にでも私に向けたかったんだ。 私を大切に思ってくれてるって言う、確証が欲しかった。」 乾いた喉を水で湿らせながら、私たちは夢中で話し合った。 私はちっさーが大好きで。 ちっさーも同じように思ってくれていると、今なら信じられる気がした。 「私は栞菜のこと、大好きよ。これからもいっぱい色んな話をしたいわ。」 「うん・・・うん。ありがとう。私多分、ただ一言そう言って欲しかっただけなんだ。」 「遠回りしちゃったわね。」 本当だ。こんなシンプルなことを共有するために、バカみたいに時間をかけてしまった。 「ところで、えりかさんは?私、えりかさんに呼ばれて・・・・もしかして」 「うん、そういうこと。・・・・何かえりかちゃんて、すごいよね。」 「そうね、いろいろと。」 それから私たちはいつもどおりの私たちに戻って、ランチセットを食べながらいろんなことを話しこんだ。 「そろそろ移動する?って言っても、あんまり遊ぶとこないんだけど。」 私が提案すると、なぜかちっさーがモジモジしながら 「あ・・・それなら、私カラオケに行きたいわ。栞菜と練習したい曲があるの。」 と小さな声で言った。 練習といったら、あの曲だねお嬢様。 コンサートでお披露目することも決まっているし、私もその案に大賛成だった。 「うん、行こう行こう!あ、えりかちゃんもう帰っちゃったけど誘う?愛理とか、なっきぃとか」 「・・・今日は、栞菜と2人きりがいいわ。」 なぜそこで赤くなる。 お会計を済ませた私たちは、さっそく駅前のビルのカラオケへ行くことにした。 店を出る直前、何気なくケータイを開くと、愛理から“やったね!×4人より”とメールが入っていた。 「んん?」 ふと私は店内を振り返った。 「あっ」 「え?何?」 「んー・・・・なんでもないっ!本当、私たちは恵まれているね!えりかちゃん最高!キュート最高!」 私は強引にちっさーの腰を抱いて、若干急いでファミレスから遠ざかった。 ちっさーには、私たちのいたところから死角になっていた席に、サラサラの黒髪美少女を筆頭にした4名様がいたことは内緒にしておこう。 今日だけは、ちっさーを独占したい。 私は手早く「ありがとう!×100000000」と打って、4人・・・とえりかちゃんに一斉送信した。 ごめんね、丁寧なお礼はまた明日。 「行こう、ちっさー!」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/380.html
「ちしゃ・・・ちしゃと様・・・もう無理、本当に、お許しください・・・・・」 「やだ」 その後、私が何度もあっちの世界に旅立っても、千聖は攻撃の手を休めようとしなかった。相変わらず淡々と指を振動させて、たまに「グフフ」と機嫌よく笑う。 その顔は舞ちゃんとイタズラに没頭している時とあんまり変わらない。明らかに友達や仲間とすることからは逸脱したこの行為も、千聖にとっては、超ハードな遊びぐらいの認識しかないのかもしれない。 「ちさとぉお・・・苦しいよぅ」 「うへへ、声裏返ってるし!泣いてるし!」 千聖はおもむろに手を離すと、もはやピクリとも動けなくなった私の横に寝そべった。 「千聖の勝ち?」 「・・・勝ち、でいいよ。」 「ムフフ・・・」 私の胸に顔を押し付けて、千聖は赤ちゃんみたいにギュッとしがみついてくる。残念ながら抱き返す余力はないけど、楽しそうにしているのを見るのは悪い気分じゃない。 「ちょっと、くすぐったいよ」 千聖は鼻先を胸の谷間に突っ込んでムフムフ息をしている。大きめの犬がジャレついてきてるみたいだ。 「えりかの匂い、千聖のとはちょっと違うね」 「ん?」 「さっき同じ香水塗り込んだじゃん」 よっこいしょと自分のおっぱいを持ち上げて、私のと交互にクンクンする千聖。・・・これは、舞美にはできない技ですな。とかいってw 「香水って、もともとの体の匂いと混ざるからね。つける人によって変わるっていうし」 「そっかぁ」 といっても、私はそこまで違うとは思わなかったのだけれど。千聖はわりと鼻が利くから、そこらへんも敏感なんだろう。 「確かに、えりかちゃんの方がセクシーっぽい匂い。千聖は何か果物っぽい匂いだ」 感慨深そうに2つの胸を見比べた後、体をずり上げて目線の高さを合わせてきた。 「じゃあさ」 「何?」 指を絡ませて、ほっぺたを擦り付ける。千聖がこんな恋人同士みたいな甘え方をしてくることはめったにない。 「もっとくっついたら、えりかの匂いと千聖の匂いが混じって、新しい匂いになったりすのかな」 「千聖・・」 「ね、どうだろう。試したくない?」 潤んだ唇から、乾いた声。千聖はひどく興奮しているみたいだった。 「ん・・・」 思わず口づけると、もっととせがむように、首に回された手に力が篭る。触れ合う舌先や、お互いのほっぺたをくすぐるまつげの感触がたまらない。 いい加減だるくなっていたはずの体が、千聖を求めて元気を取り戻してきた。抱きしめたまま、千聖に覆いかぶさってキスを続ける。 ベッドはあくまでも柔らかくて、私と千聖の重みの分だけ沈んでしまうから、しっかり抱き合っているのに、どこか心もとない。もっと、肌の感触をしっかり感じたいのに。 そんなことを考えていると、千聖が急に耳たぶを噛んできた。 「どうしたの?」 「・・・あっちは?」 「え?」 指差す方向には、千聖お気に入りの観覧車がよく見えるソファ。 「あそこなら、もっとギュッてできるよ」 「・・・あのね、」 「だって千聖と密着したかったんでしょ?すっごい抱きついてくるから、何事かと思った。あたりでしょ?」 私の返事も待たずに、千聖は私を押しのけてパタパタと走っていった。・・・もう、子供っぽいくせに変なとこ勘がいいんだから! 「千聖もまだ観覧車見たかったから、こっちでいいよ。来て」 観覧車は相変わらず煌々と夜闇を照らしている。真ん中のデジタル時計は、もうとっくに日付が変わっていることを示していた。チェックインが21:30だったから・・・こんな長い時間、千聖と私はイチャイチャネチネチ楽しんでいたのか。 「千聖、絶倫・・・」 「んー・・・?」 生返事の千聖は、裸のまま大きな窓に体を押し付けて、夢中で見入ってるようだった。 「・・・外から見えちゃうよ。千聖の露出魔ー。」 「こーゆーいいホテルの窓は、外からは見えないようになってるんだよ。えりか知らないの?ふふん」 まるで絵にかいたような小生意気な表情で、ベーッと舌を出してきた。何て態度でしょう!私は再び千聖が観覧車に目線を戻したところで、コソ泥のごとくソーッと抜き足差し足で背後に忍び寄った。頃合を見計らって、緩やかに括れた腰をガシッと掴む。 「ひゃあああ!!?」 ウィークポイントへのいきなりの攻撃で、反射的に千聖は前に体をつんのめらせた。窓ガラスにくっついていたたゆんたゆんが余計にぷにゅっと押し付けられる。 「どうするの、見えてたら」 「ん・・・え、まさか、だってこんないい部屋」 「でも割引で入った部屋だしー、絶対に見えないなんて保証はないしー。」 「え、え、だって、だって」 フガフガしながら窓から離れようとするも、私がワンちゃんの交尾(・・・)のごとく後ろから体を押し付けているから逃れられない。 「・・・えりがぢゃあん・・・」 まあ、ここの窓が目隠しフィルムで外から見えなくしてあるのは確認済みから、こんなイタズラができるんだけど。 「さっきはよくもやってくれたね岡井君」 「あっ、もう、やだ、そこ・・・ごめんってば!」 思いっきり体を捻られて、2人して絨毯に倒れこむ。 「いてて・・」 ソファに移動しようとする私を、下から千聖が引っ張って止めた。 「ここでいいじゃん」 「地べただよ」 「どーせまたあとでお風呂入らなきゃなんないんだし。ね、もっとぎゅーってしてよ」 まるで大きな赤ちゃんだ。急に甘えたスイッチが入ったのか、まったく私から手を離そうとしない。 「もう、何でそんな甘えん坊なの」 「だって・・・」 あきらめて体に手を回して抱きしめると、待ち構えていたように体を擦り付けてくる。 「どうしたの?」 「千聖のニオイ、いっぱいつけとくの。そしたら、ずっと一緒でしょ」 私を見上げる千聖の瞳から、いきなり涙が溢れた。 「千聖、」 「・・・・本当に、いなくなっちゃうの?お嬢様のこと置いてくの?」 「千聖・・・」 「やだよ、えりか・・」 私は、気づいていたのに。 洋館に行く道のりで、お嬢様の千聖が、何かを振り切るように泣きながら坂を駆け上ったり、 明るい方に戻ってから、やたらテンション高く、いつもは嫌がる行為に積極的になったり。 千聖は溢れそうな本当の感情を必死で隠して、側にいてくれたのに。一番言いたくなかったであろう言葉を、ついに言わせてしまった。 「えりかちゃん・・・えりか・・・」 私は必死で奥歯を噛んだ。泣き虫だけど、どうしようもないヘタレだけど、今は泣いちゃいけないから。 大好きな場所から旅立つと決めたあの日と同じぐらいの勇気を湧き上がらせて、私は口を開いた。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -